2003年9月11日のジョアン・ジルベルト初来日コンサートが終わり、その日のうちに土井さんは根羽村にもどった。
ジョアンには会えなかったが、コンサートには満足した。日本の観客の質の高さにも今更ながら感心した。なによりジョアンが日本人に愛されていることが、彼に伝わったことがうれしかった。
そんなことを思っていた午後3時すぎ、土井さんのカフェDECOの電話が鳴った。土井さんが電話にでると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、26年ぶりに聞くブラジルなまりの英語、そう!ジョアンの声だった。
「コンサートに来てくれてありがとう!会えなくて悪かったね。リハーサルだったんだよ」とジョアン。
続けて、「覚えているよ!初めて会ったとき、君は『ブラジルと日本はアミーゴ(友達)だ』て言ってくれたよね」
「しばらく日本にいるから来てくれたら今度は会えるよ」
「また日本に来るから、その時は会おうね」
土井さんはジョアンの言葉は覚えているが、自分が何を話したか、今では記憶が定かでない。
5分にも満たない電話であった。しかし、20年以上も前にジョアンにかけた一番最初の言葉を彼が覚えてくれたことに、土井さんは心を動かされずにはいられなかった。
「電話を掛けてくれてありがとう。今度会おう」と土井さんはそう言って受話器を置いた。
ジョアンは、その後、2004年、2006年と日本でコンサートを開いたが、土井さんとジョアンは再会するチャンスに恵まれなかった。(MJ)