土井さんが営んでいるカフェDECOのカウンター上の壁にはジョアン・ジルベルトの写真やアルバムジャケットとともに1枚の裸婦の油絵が飾ってある。その絵の作者はジェフリー・ホールダー。彼は絵画をイギリスとフランスで学んた本格的な画家でもあった。
“アメリカの黒いモディリアーニ ”とも呼ばれるホールダー。絵画の世界でも一流であった。彼の絵画作品集を土井さんのカフェで見ることできる。暇なときはいつも彼は絵筆を握っていた、と土井さん。絵画ばかりでなくホールダーには写真作品集もある。
そんなホールダーにジョアン・ジルベルトのアルバム『AMOROSO』(邦題『イマージュの部屋』)のジャケット制作依頼が舞い込む。これはジョアンとホールダーが同じマネージャーの下で仕事をしていたためであった。ホールダーは妻カルメンをモデルにした絵を描きプロデューサーに提出した。
さて、『AMOROSO』 のジャケット表面は決まった。しかし、アルバムジャケットにはアーティストの写真が必要だ。だが、ジョアンは気難しいうえに写真嫌いだった。どうしようかという話になり、思案検討の結果、プロデューサー ヘレン・キーンはホールダー推薦の土井さんを呼ぶ。この時のことを土井さんは2014年10月10日飯田市川本喜八郎人形美術館で開かれたトークショーで次のように語っている。
土井弘介:
まずオファーがあったときに、音楽プロデューサーのヘレン・キーンから「あなたはジョアンのこと知っているか?」という質問がありました。僕は知っていました。ボサノバは好きでした。ジョアンがゲッツという有名なサックスフォン奏者と競演した『ゲッツ・ジルベルト』というアルバムも持っていましたら、「よく知っているよ」と言ったことだけで、彼女は安心したわけです。ボサノバのことも、ジョアンのことも知っていてくれていたということで。ヘレンは僕に「(ジョアンの)写真を撮ってほしいんだけれども、実は、彼は気難しい、しかも写真を撮られることをあんまり喜ばない人だから、どうする?」と聞かれたから、「まあ会ったところ勝負でいきましょうや」と、「僕はいままで誰でも平気で撮ってきていたから、だぶん撮れると思いますよ。撮れなかったら撮れなかったであやまります」といったら、ヘレンは笑っていましたけれどね。
(2014年10月10日飯田市川本喜八郎人形美術館トークショーより)
そして、1977年1月24日、ヘレン・キーンのアパートのあったニューヨークEast96stで、土井さんはジョアン・ジルベルトと一期一会の邂逅を得ることになる。
(土井さんは、アルバム『AMOROSO』において、表面のジェフリー・ホールダー絵画作品と裏面のジョアン・ジルベルト ポートレートの撮影を委ねられた)
(MJ)